勤務情報提供書の前で、職務情報を細かくした
S社では、治療中の社員を支えるために勤務情報提供書を作り、主治医の意見を受け、産業医等と両立支援プランを作成していた。それでも、現場で何を変えるかは、毎回すぐには決まらなかった。
勤務情報提供書に「事務職」「月末が繁忙」「残業あり」と書いても、主治医が仕事の実態を読み取るには粗すぎる。会議が一日に何本続くのか、どの作業で判断負荷が高いのか、通院翌日の締切がどこに重なるのかまでは見えにくかった。
そこでS社は、勤務情報提供書へ入れる前の職務情報を、作業、時間、情報、環境、評価、支援線に分けて確認した。職種名ではなく、医療者が意見を返しやすい仕事の条件として整えるためだ。

病名ではなく、仕事の接触点を見た
S社が加えたのは、医療情報の翻訳ではなく、職場側の情報の再構成だった。病名や症状を推測するのではなく、仕事のどの接触点が治療・通院・回復時間とぶつかるのかを確認する。
たとえば「疲れやすい」と主治医に説明しても、職場の側に戻すときには粗い。午前と午後で差があるのか、通院翌日に強いのか、月末の残業が響くのか、連続会議が難しいのか。どこに現れるかで、プランに入れる条件は変わる。
S社では、勤務情報提供書を作る前に、本人、人事、上司、産業保健担当が、職務情報を仕事条件の項目で確認した。医療者に職務設計を任せるのではなく、医療者が意見を返しやすい職場情報に整えるためだ。

意見書を受けた後、プランを日々の運用へ落とした
主治医意見書が戻ってきた後も、S社はそこで止めなかった。産業医等と両立支援プランを作る段階で、意見書の内容を、勤務時間、会議密度、締切、在宅勤務、代替手順、相談先、評価時期へ分けた。
たとえば「過度な負荷を避ける」という表現は、そのままでは現場で使いにくい。S社では、月末三日間の残業、午前中の連続会議、出張後の翌日業務、顧客対応の待機時間など、職場で変えられる条件に戻して検討した。
上司が医療判断を抱え込まないよう、産業保健は健康上の注意と相談線、人事は制度と勤務形態、上司は日々の作業量と代替手順を見る。この分け方は、役割分担を曖昧にしないためにも使われた。

見直しの合図を、仕事条件の変化にも置いた
両立支援プランは、作って終わりではない。治療が進む、薬が変わる、繁忙期に入る、担当業務が変わる。どれかひとつが変わるだけで、必要な仕事条件は変わる。
S社は、定期的な見直しに加えて、仕事条件側の変化を見直しの合図にした。新しい顧客担当になった、会議が増えた、出社日が変わった、同僚の代理作業が増えた。病状の詳細ではなく、プランが前提にしていた仕事の条件が変わったかを見る。
見直しの場では、職務情報が粗すぎなかったか、意見書を現場運用に落とせているか、プランの前提になった仕事条件が変わっていないかを確認する。支援は、書類の完成ではなく、仕事の変化についていく運用になった。
標準体制として見る部品
勤務情報の入口
職種名や繁忙期だけでなく、作業、時間、情報、環境、評価、支援線として職務情報を出す。
職務情報の分解
作業、時間、情報、環境、評価、支援線に分け、主治医へ渡す勤務情報の粒度を上げる。
意見書後の運用化
医療上の意見を、勤務時間、会議密度、締切、代替手順、相談先へ落とす。
役割境界
医療者は職務を決めず、企業は病状を判断しない。産業保健、人事、上司の見る範囲を分ける。
見直しトリガー
治療経過だけでなく、業務変更、繁忙期、会議増加、代理作業の偏りを見直しの合図にする。
現場で使うなら、手順はこの順番
1. 勤務情報に入れる材料を集める
職種名ではなく、作業、時間、情報、環境、評価、支援線として職務情報を整理する。
2. 職務を分解する
会議密度、締切、出社、通院後の回復時間、代理作業など、現場で変えられる条件へ分ける。
3. 意見書を運用に戻す
主治医意見を、会議密度、締切、出社、代替手順、相談先など職場で扱える条件に戻す。
4. プランに見直し条件を入れる
定期見直しだけでなく、仕事や治療の変化が起きた時に再確認できる条件を置く。
5. 記録を次の支援へ残す
有効だった調整、合わなかった条件、代理作業の偏りを、次回の勤務情報とプランに戻す。
読後に話す問い
- 勤務情報提供書に入る職務情報は、職種名や一般的な忙しさで止まっていないか。
- 主治医意見書を受けた後、企業内で会議、締切、作業密度、相談先へ落とせているか。
- 産業保健、人事、上司、本人の判断範囲は混ざっていないか。
- 両立支援プランの見直しは、治療経過だけでなく仕事条件の変化でも起こせているか。
